秋の風が吹いて（ダンモ前編）

秋は音も立てずにひっそりと近づいてくる。
まだ夏は続いているけれども、
秋は確実に自分の前をすり抜けようとしている。
そんな時には、自分が今までいた場所、今いる場所、
これから進む場所を知りたくなるものだ。

私はこの頃、自分がすごく小さくなったように感じていた。
毎日同じ場所に来ては、自分の目の前に広がる膨大なタスクをこなし、
なんとかやり切って疲労困憊で帰る日もあれば、
こなし切れずに意気消沈して帰る日もあった。
それは自分が選んだ道であるし、
そんなにどの世の中も甘くないということもわかっているつもりでいた。
けれどもそういう日々が続いているうちに、
自分の今までいた場所、今いる場所、これから進む場所が正しいのか、
つまりこれまでの選択の１つ１つに疑問を抱き始めた。
一度抱き始めた疑問は水に紛れ込んだインクのように
じわじわと私の中で広がり、じっとしてはいられなくなった。

気付けば私は早稲田行きの地下鉄に乗っていた。
今の私が過去の私がいた場所に行ったところで、
当然私の場所はないだろうと思っていた。
それでも、あえてアウェーな場所に行くことで、自分を客観視したかった。

早稲田駅に降りると、サークル帰りの学生がちらほら見えて、
一気に懐かしさがこみあげてきた。
たったの１年ぶりでこんなに懐かしい感情になるものなんだな、
ということに驚いた。
周辺の様子は一見すると変わった様子はなかった。
けれども、当然知っている顔はない。












私はどこにも焦点を合わせずにひたすら学生会館へと向かった。
２、３年前は毎日のように歩いていた道なのに、
とてつもなく長い道のりのように感じた。
それだけ自分の中で時間が過ぎたということだろうか。
学生会館に近づくにつれて、いよいよ学生でごった返してきた。
少し奥まった所にある１階入り口に入ると、
管楽器の練習の音や学生の騒々しい音が一気に耳に押し寄せた。
どんなに景色が移り変わっても、いつまでも変わらない場所がそこにはあった。
（つづく）


続きをはやく読みたい人はクリックよろしくお願いします＾＾；