オケの集団をかき分け、学生会館の地下を奥へ奥へと進んだところに、
早稲田大学モダンジャズ研究会、通称ダンモの部室はある。
かつて、あのタモリも足を踏み入れていた場所だ。
部室の側の廊下で練習している人がいたが、
私の知っている人でもなければ、
ダンモの人なのかどうかもわからなかった。
とりあえず声を掛ける勇気のなかった私は、
練習している人たちの横を通り過ぎ、
過去のライブのポスターが無造作に貼られた扉を開けた。
扉を少し開けると、ベースの重低音がかすかに地面を揺らした。
見覚えのある面々がセッションしているのを目の当たりにし、私は
2年間の時の流れを忘れた。
やっぱりこの場所は、何もかも変わっていない。
緊迫感の溢れる演奏に、私は気分を高揚させた。
相変わらずかっこいいなと思うと同時に、
自分も早くそのセッションに混じりたいと思った。
ジャズはじっくりと聞くのも楽しいが、
自分で演奏するのが何より楽しい音楽だと、つくづく思う。
長い長いベースソロの後、テーマに戻り、曲が終わった。
「おひさしぶり」
長らく会っていなかった人と話すのは、なんとなく気恥ずかしく、
なんとなくぎこちなくなってしまう。
おひさしぶり、それ以上の言葉が見つからなかった。
私はおもむろにピアノの椅子に座り、セッションを始めた。
ピアノもまたひさしぶりでぎこちない演奏になってしまったが、
話すよりも演奏する方が、会話できた気がした。
人の演奏は、どんなに隠そうとしても、その人そのものが表れてしまう。
無口な人が、すごく猛々しい演奏をすることもあれば、
とても活動的な人が控えめな演奏をすることもある。
あっという間に曲が終わり、私はすごく汗をかいていた。
「次、何の曲にしますか?」
フロントの人にそう声をかけられ、私ははっとして周囲を見回した。
よく見ると、一緒に演奏している部員はほとんど皆、
私がこの日初めて会った後輩達だった。
私は2年前と錯覚していたのだ。
しかし、錯覚してしまうほどに、
その場の空気が変わっていなかったのは事実だ。
セッション後にご飯を食べながら、
私は2年前に現役だった部員たちが今どうしているのか尋ねた。
どうやらたまに来る人もいるが、もうほとんど来ていないようだった。
2年前は毎日のように部室にいたのに、
今や誰も全く消息を知らないという人もいた。
その人は私もとてもお世話になった人なので、心配だった。
でもその人なら、きっとどこかでうまくやっているだろうとも思った。
帰り道で一人になった時、私は2年間の時の流れをようやく実感した。
一度タイミングを逃すと、なかなか行かなくなってしまう場所もあれば、
会わなくなってしまう人もいる。
でも、タイミングは作ればよい。
作ったタイミングが合わなければ、また作ればよい。
久しぶりに会って誰だか思い出せなければ、また覚えればよい。
一期一会と、思い立ったが吉日。
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